メタボリックシンドロームとは?
メタボリックシンドローム(英 metabolic syndrome、代謝症候群とも)とは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・高脂血症のうち2つ以上を合併した状態。WHO、アメリカ合衆国、日本では診断基準が異なるため注意を要する。以前よりシンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、マルチプルリスクファクター症候群、内臓脂肪症候群などと呼称されてきた病態を統合整理した概念である。
それぞれ単独でもリスクを高める要因であるが、これらが多数重積すると相乗的に動脈硬化性疾患の発生頻度が高まる為、リスク重積状態はハイリスク群として予防・治療の対象と考えられてきた。このようなリスク集積状態は、偶然に起きたとする考え方と、何かの共通基盤(内臓脂肪の蓄積・インスリン抵抗性・遺伝的背景など)に基づくという考え方があり、近年では特に内臓脂肪の蓄積による肥満が共通の基盤として着目されている。メタボリックシンドロームでは、内臓脂肪蓄積型肥満=男性型肥満ともいわれている上半身型肥満=リンゴ型肥満に対して注意が呼びかけられている(一方女性型肥満といわれている洋ナシ型肥満、これは下半身型肥満ともいわれ内臓肥満とは捉えられていない。以前はW/H比、ウェストヒップ比が議論された事もある)。しかし、日本の中年男性の半分近くがこの「症候群」またはその予備群に該当するものであり、疾患として扱うのが妥当であるかどうか議論になっている。
平成19年(2008年)から始まる特定健診制度(糖尿病等の生活習慣病に関する健康診査)では、メタボリックシンドロームの概念を応用して糖尿病対策を行う事を目指し、40歳から74歳までの中高年保険加入者を対象に健康保険者に特定健診の実施を義務化すると共に、メタボリックシンドローム該当者、または予備群と判定されたものに対して特定保健指導を行うことを義務づける。5年後に成果を判定し、結果が不良な健康保険者には財政的なペナルティが課せられる。厚労省は、中年男性では二分の一の発生率を見込むなど、約2000万人がメタボリックシンドロームと予備群に該当すると考えており、これを平成24年度末までに10%減、平成27年度末までに25%減とする数値目標を立てている。これにより医療費2兆円を削減するという。これらの数字は、「医療制度改革大綱(平成17年12月1日 政府・与党医療改革協議会)の数値目標をなぞったものだが、実現性を危ぶむ声が強い。
1988年、生活習慣病の三大要素(高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常)がインシュリン抵抗性を基礎に密接に関連して、糖尿病と心血管疾患を引き起こすという学説が、Reaven GMによって「Syndrome X」との研究名で報告され、その翌年にKaplan NMによる「死の四重奏」と題する研究報告がなされたのを契機に、インシュリン抵抗性症候群の研究が盛んとなり、1998年にWHO(世界保健機関)が『メタボリック症候群』という名称と、その診断基準を発表した事により、一般に知られる病態名となった。
2001年に簡便なNCEP-ATPⅢ診断基準ができて、これが世界的に普及したが、2005年、国際糖尿病連盟(IDF)は腹部肥満を必須項目とするメタボリック症候群の世界統一診断基準を作成した。しかし、これが論文として掲載される前に、アメリカ循環器学会(AHA)とアメリカ国立心臓肺血液研究所(NHLBI)は、このIDF診断基準よりも、腹部肥満を必須項目とせず、腹囲、血圧、中性脂肪、HDLコレステロール、血糖の5項目中3項目を満たせばメタボリック症候群とする従来のNCEP-ATPⅢ診断基準の方がよい、という共同声明を発表した。相前後して、アメリカ糖尿病学会(ADA)とヨーロッパ糖尿病学会(EASD)は、これまでのどの診断基準も欠陥だらけであり、現時点では、人々にメタボリック症候群というレッテルを貼ってはならないという共同声明を発表した。
その後、メタボリック症候群の診断は有用であるとするAHAのGrundyと、メタボリック症候群の診断は有害であるとするADAのKahnとの間に論争が繰り広げられ、メタボリック症候群の概念の提唱者であるReavenは、現行の診断基準では、メタボリック症候群に当てはまらない人の方が、メタボリック症候群と診断される人よりも明らかに高リスクである、というシナリオがいくらでも想定される事を具体的に例示して、人々にメタボリック症候群というレッテルを貼ってはならないというKahnらの見解に賛成の意を表明した。
Reavenは、数ある診断基準の中でもIDF診断基準(日本の「メタボリックシンドローム-内臓脂肪症候群」はこれに近い)が最も危険である事を指摘し、これまでに報告された、クランプ法で厳密に測定したインスリン抵抗性と、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、およびBMIとの相関関係を研究した論文を表にまとめて、インスリン抵抗性と内臓脂肪面積が、特別強い関係にある、とは言えない事を明らかにした。Grundyは、メタボリック症候群は短期リスク(10年)を評価する道具ではなく、長期リスクを評価する道具であると述べているが、最近、30年に及ぶ長期リスクの研究でも、メタボリック症候群はその個々の成分以上の予後評価の情報を与えないという結果が報告された。また、彼はメタボリック症候群と診断すべきか否かの論争はAHAとADAの利害対立を背景としているかのように述べてるが、AHAとADAは、2006年6月、それを否定して、「心血管疾患と糖尿病予防のために」という簡潔な共同声明を発表した。この中で、メタボリック症候群という診断をすべきか否かの賛否両論に触れ、メタボリック症候群の診断に拘らず、肥満、血糖、血圧、脂質異常、喫煙の重要性を指摘して、文明社会、特に欧米に蔓延する肥満の予防と治療を呼びかけた。また、2007年6月には、アメリカ糖尿病学会、アメリカ栄養学会、北米肥満学会が腹囲に関して共同声明を発表し、現時点では、腹囲の基準値はすべて、科学的根拠が不十分であり、今後確立される科学的基準値は人種別、性別、年齢別、肥満度別の非常に複雑なものになるであろうと指摘した。
但し、心血管疾患の危険因子はインシュリン抵抗性を中心に集積するという現象は事実であり、最近、インシュリン抵抗性と炎症が絡みあって、内皮機能障害と動脈硬化をもたらす事、及び、その背景に、身体計測の肥満よりも、内分泌疾患としての肥満(脂肪ホルモンの失調状態)がある事が明らかにされてきている。
尚、日本の「メタボリックシンドローム」診断基準が欠陥だらけである事は、既に、エビデンスで証明されている。日本肥満学会は、2000年に、男女ごちゃ混ぜに決めた内臓脂肪面積の基準値から、男女別に腹囲の基準値を決めるという奇妙な解析方法で、男性85cm、女性90cmという世界に類の無い、男女逆転した腹部肥満の基準値を提唱し、2005年に、世界糖尿病連盟(IDF)と、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会に、これを承認させた。しかし、このメタボリックシンドローム診断基準検討委員会の14人の委員のうち、過半数の8人は日本肥満学会の役員だったのであり、IDFは、2006年に、日本人も、アジア人の基準値、男性90cm、女性80cmを採用すべきであると訂正した。そして、2006年に、2452人を対象とした14年間に及ぶ久山町研究によって、男性85cm、女性90cmという基準値によって診断された腹部肥満が、男女とも心血管疾患発症の危険因子にならない事、及び、男性90cmを基準値とした腹部肥満は有意な危険因子となり、女性80cmを基準値とした腹部肥満は危険因子となる傾向がある事が実証された。また、この2006年の久山町研究によって、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会が提唱したメタボリックシンドロームは、男女とも心血管疾患発症の危険因子として極めて不適切であり、心血管疾患発症の相対危険度について、人々に幻想を与える事が判明した。更に、2007年6月、NIPPON DATA90で、肥満をメタボリック症候群の必須条件とするのは危険である事が示され、同じく2007年6月、国保10年コホルト研究で、医療経済学的に見ても、非肥満で心血管危険因子を有する集団の医療費は、総医療費の16.5%を占めるのに対して、肥満を必須条件としたメタボリック症候群に、ほぼ、相当するであろうと思われる集団の医療費は、総医療費の僅か2.9%に過ぎない事が判明した。
厚労省は、これらのデータを無視して2008年度からメタボ健診を強行し、それによって2兆円の医療費削減になると試算しているが、東海大学の大櫛教授の試算によれば、逆に5兆円の医療費無駄使いになるという。無視できないのはこれに便乗した産官学共同のメタボ商法である。この厚労省のメタボ健診が、経産省と大阪大学・松澤グループとN2システム株式会社の内臓脂肪面積計算ソフトの売り上げに大きく貢献することは確かであろう。内臓脂肪面積の臨床的有用性が確立していないにもかかわらず、内臓脂肪面積の計算が臨床的に有用であるかのような幻想を振りまいて、このN2システム株式会社は、既に、5億1600万円の売り上げを稼いでいるのである。
世界ではインシュリン抵抗性を基礎とした病態と考えられているが、日本では現在、「蓄積された内臓脂肪組織は様々なアディポサイトカイン(内分泌因子)を分泌し、その中のアディポネクチン、レプチン、TNF-α、ビスファチンなどの遺伝子発現レベルでの産生異常が代謝異常を引き起こし、動脈硬化などにつながる」とする大阪大学医学部チームの発表が、メタボリックシンドロームの概念として支持されている。ただし、この疾患の概念や診断基準については、日本国内でも、大阪大学グループの学説に異議を唱える動きも出てきており、また、WHO、IDFなどの機関ごと、あるいは国ごとに大きく異なる部分があり、症候群として捉える事自体に異議を唱える学者グループや学会も複数存在しているのが実情である。
日本医師会は生涯教育シリーズ「メタボリックシンドローム」で、これが、心血管疾患のリスクを35.8倍にするような根拠の無いイラストレーションを掲載しているが、世界のこれまでの疫学データのメタアナリシスでは、心血管疾患のリスクは平均1.74倍と報告されている。また、日本では、14年間におよぶ久山町研究で、日本肥満学会の診断基準によるメタボリックシンドロームは、男性では心血管疾患の相対危険度が1.4で、これは有意なリスクにならない事が判明した。
1993年、ホタミスリギルは肥満とインシュリン抵抗性の間に炎症(TNFα)が介在することを突き止め、最近のいろいろな遺伝子操作による動物実験では、身体計測上の肥満や内臓脂肪ではなく、脂肪細胞の肥大化・壊死とそれを冠状に取り囲むマクロファージ(炎症性細胞)の集積が、炎症とインシュリン抵抗性をもたらし、これがメタボリック症候群の病態の基礎となっていることが次第に明らかにされてきている。内臓肥満や超肥満でも脂肪組織の組織像が正常で、メタボリック症候群の病態を伴わない動物モデルや、逆に、肥満も内臓肥満もないのに脂肪組織の組織像が脂肪細胞の肥大化・壊死とそれを冠状に取り囲むマクロファージ(炎症性細胞)の集積という肥満症の所見を呈して、メタボリック症候群の病態を伴う動物モデルが報告されてきている。さらに、2006年、日本の2つの異なる研究グループは、肥満も内臓肥満も脂肪細胞の肥大化もないのに脂肪組織の組織像にマクロファージの集積が見られ、メタボリック症候群の病態を呈する動物モデルを報告した。
基本的に「痛い」とか「辛い」といった自覚症状に乏しいのが生活習慣病の特徴であり、その治療は「自覚症状の緩和」ではなく、この病態を長期間・慢性的に持続させた結果として生じてくる「合併症予防」に目標がおかれる。メタボリックシンドローム(代謝症候群)の場合、動脈硬化の発生・進展防止が治療目標となり、そのための脂肪蓄積の進行防止・解消を目的に食事療法による摂取カロリーの適正化と、脂肪燃焼を促す目的での運動療法が基本となる。更に、食事・運動といった生活習慣の改善により解消されない危険因子(耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧など)に対しては薬物療法を並行して実施する場合もある。また、喫煙は個別の動脈硬化の危険因子である事が疫学的に証明されているので、禁煙努力も並行して行うべきである。
しかし検診・脳ドックなどで無自覚のまま動脈硬化の進展が検査などにより発見されたり、動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)を発症した場合は、降圧薬(降圧効果以外にも動脈硬化進展抑止作用があるとされるアンジオテンシンII受容体拮抗薬などがよく用いられる)、抗血小板剤(アスピリンなど、所謂「血液サラサラ」効果を狙う)の投与などが検討され、バルーンカテーテル等による血管内療法や、血栓溶解療法、さらに冠動脈バイパス術のような外科的治療法がとられる場合もある。
メタボリック症候群を予防するためには、肥満の流行を予防することが重要である。現在、BMI(体重/身長の2乗)30以上の肥満の頻度は、アメリカでは30%以上、日本では3%であり、これは肥満が個人の生活習慣ではなく、社会的生活環境によって流行することを示していると考えられる。したがって、肥満の流行を防ぐためには、個人の努力では不可能であり、政治的経済的規制によって、現在の日本の生活環境、特に食環境を守ることが必要であると考えられる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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