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糖尿病とは?



糖尿病(とうにょうびょう、Diabetes Mellitus: DM)は、糖代謝の異常によって起こるとされ、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高まることによって、様々な特徴的な合併症をきたす危険性のある病気である。一定以上の高血糖では尿中にもブドウ糖が漏出し尿が甘くなる(尿糖)ため糖尿病の名が付けられた(Diabetes=尿、Mellitus=甘い)。腎臓での再吸収障害のため尿糖の出る腎性糖尿は別の疾患である。

全世界の患者数は2006年現在で1億8000万を越えると見積もられ、2030年までに倍増すると予想されている。 日本国内の患者数は、この40年間で約3万人から700万人程度にまで膨れ上がってきており、境界型(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われる。


概要

血液中のブドウ糖濃度(血糖値、血糖)は、正常では常に一定範囲内に調節されている。これは、ブドウ糖が脳をはじめとした各器官の主要なエネルギー源であるだけでなく、組織の糖化ストレスをもたらす有害物質でもあるからである。血糖が上昇したときの調節能力(耐糖能)が弱くなり、血糖値が病的に高まった状態(または、高まることのある状態)を糖尿病と言う。


病態

耐糖能の低下はインスリン作用が不足することによって起こる。インスリン作用は、血中にインスリンが必要なだけ分泌されることと、血中からインスリンが必要なだけ消費されることの、両方が必要である。血中にインスリンを分泌するのは膵臓にあるランゲルハンス島の内分泌細胞であり、血中のインスリンを消費するのは肝臓や脂肪、筋肉等である。従って膵臓での分泌や、脂肪筋組織での消費に問題が起こると糖尿病になる。膵臓でのインスリンの分泌は血糖値に応じてランゲルハンス島から分泌され、肝臓等各組織でのインスリンの消費はグリコーゲンの合成や脂肪の合成、タンパク同化を促している。


分類

糖尿病は、耐糖能が低下する機序(メカニズム)によって1型糖尿病と2型糖尿病に分けられる。


1型糖尿病

1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう)(ICD-10:E10)は「インスリン依存型糖尿病」ともいい 、膵臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌しているβ細胞が死滅する病気である。ほとんどの患者が20歳までに発症することから昔は小児糖尿病とも呼ばれていた。血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が低下するか、ほとんど分泌されなくなるため血中の糖が異常に増加する。20世紀前半にインスリンが治療応用されるまでは、極度の食事制限を要する致死的疾患の一つであった。血中に自らの膵細胞を攻撃する自己抗体が認められるものを1A型(自己免疫性)、ないものを1B型(特発性)とする。飲み薬は無効で、患者はかならず注射薬であるインスリンを常に携帯し、毎日自分で注射しなくてはならない。インスリンを注射しなければ、容易に生命の危険に陥る。また、1型糖尿病のなかでも、特に20歳を過ぎてから発症する「劇症1型糖尿病」という数日間でインスリンが枯渇するさらに危険な病もある。診断の基準としてはGAD抗体、抗IA2抗体が陽性かどうかが重要である。2型と違い遺伝素因は少ないとされている。生活習慣病である2型とは違い、1型は生活習慣病ではない。


2型糖尿病


2型糖尿病(にがたとうにょうびょう)(ICD-10:E11)は「インスリン非依存型糖尿病」ともいい、インスリン分泌低下と感受性低下の二つを原因とする糖尿病である。欧米では感受性低下(インスリン抵抗性が高い状態)のほうが原因として強い影響をしめすが、日本では膵臓のインスリン分泌能低下も重要な原因である。少なくとも初期には、前者では太った糖尿病、後者ではやせた糖尿病となる。遺伝的因子と生活習慣がからみあって発症する生活習慣病。糖尿病全体の9割を占める。


その他の機序、疾患によるもの


遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの

MODY(モディ、Maturity Onset Diabetes of Young)、ミトコンドリア遺伝子異常、インスリン受容体異常症などが知られている。いずれも比較的若年に発症し、1型ほど重症ではなく、強い家族内発症がみられるという特徴があるが、臨床所見は大きく異なる。


他の疾患、条件に伴うもの

続発性糖尿病(ぞくはつせいとうにょうびょう、二次性糖尿病)(ICD-10:E13)は、他の疾患によって引き起こされる糖尿病である。以前は原因となる疾患と一括されていた。原因となる疾患は血糖の調節機構に挙げたホルモンが異常高値になるものである。

・グルカゴンを異常分泌するグルカゴン産生腫瘍
・糖質コルチコイド作用が異常増加するクッシング症候群、原発性アルドステロン症
・アドレナリンを異常分泌する褐色細胞腫
・成長ホルモンを異常分泌する成長ホルモン産生腫瘍(先端巨大症)
・肝硬変
・慢性膵炎、ヘモクロマトーシス、膵癌
・筋緊張性ジストロフィー
・薬剤性(サイアザイド系利尿薬、フェニトインなど)

妊娠糖尿病

妊娠中は耐糖能が悪化しがちであり(hPLやエストロゲン、プロゲストロンなどといった妊娠中に増加するホルモンによる)、妊娠中のみ血糖値の異常を来す患者がおり、妊娠糖尿病とよばれる。一般には出産後、改善する。ICD-10:O24.4、O24.9。いっぽう、もともと糖尿病患者が妊娠した場合は、糖尿病合併妊娠と呼ばれる。とは言え、もともと糖尿病であったかどうかを完全に確認できているわけではなく、妊娠糖尿病で発症し、分娩後もそのまま糖尿病が治らないこともままある。基本的に食事療法が行われるが、改善しない場合、後述の胎児へのリスクもあり、また飲み薬は催奇形性の懸念があるためインスリン注射療法を行うことになる。胎児への影響があるため、通常時より厳格な管理を必要とし、六分食やインスリン持続皮下注(CSII)などを行うこともある。

妊娠糖尿病では先天異常のリスクが高まるが、妊娠初期から正常血糖を保っていれば、通常の妊娠と同等である。早産も多く、羊水過多、妊娠中毒症の頻度も高いハイリスク妊娠のひとつである。 妊娠糖尿病では巨大児になり易い為、難産になりやすい。また妊娠糖尿病では中枢神経系よりも身体の発育が良いので、出産のときに頭が通っても肩が通らない肩甲難産になり易い。その為、分娩が長引く場合は帝王切開が良い。


ステロイド糖尿病

膠原病などでステロイドを長期に内服している場合、続発性糖尿病を発症することがある。ステロイド(糖質コルチコイド)作用の、肝臓の糖新生亢進作用、末梢組織のインスリン抵抗性の亢進、食欲増進作用が関わっているとされる。ステロイドを減量すれば軽快する。ステロイド糖尿病では、網膜症などの血管合併症が起こりにくいとされる。


原因

上記の分類に示されている通り、一言に糖尿病といっても多種多様な病気を含んでいて、本来症候群とでもいうべき疾患群である。そのなかで、1型と2型を除いたほとんどの糖尿病については上記の通り原因が明らかである。

しかし、糖尿病患者のほとんどを占める1型、2型の原因については確定的なことは何も分かっていない。ここでは提唱されている仮説について述べるにとどめる。


1型糖尿病の原因

自己免疫の異常が重要な要因の一つと考えられている。しかし、自己免疫系はそれ自体が不明な部分を多く残すため、1型糖尿病の発症メカニズムも正確には明らかではない。

・自己免疫疾患の遺伝的素因(HLA-DR、DQ、PTPN22、CTLA-4など)
・自己抗体(ICA、抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体など)
・分子模倣(コクサッキーBウイルスと抗GAD抗体の抗原であるグルタミン酸デカルボキシラーゼの相似性を根拠とする、そのほかエンテロウイルスやEBウイルスがよく候補に挙げられる)

一方、1型糖尿病の一部には自己抗体が証明されず、膵臓にも炎症細胞の浸潤が証明されないものもある。これはあきらかに自己免疫性とは言えないものである。アジア、アフリカ人に多いとされるこの病型の原因についてはほとんど不明である。


2型糖尿病の原因

2型糖尿病の原因についても明らかではない。主な病態が「インスリン抵抗性」と「インスリン分泌低下」の二つであり、それぞれに原因が提唱されている。大筋を言うと、遺伝的に糖尿病になりやすい体質の人が、糖尿病になりやすいような生活習慣を送ることによって2型糖尿病になると考えられている。しかし、そのような体質とは何かについてはほとんどわかっていないし、そのような生活習慣とはどのようなものかについても意見の食い違いがある。

近年特に国際的に特に注目されていて、広く認められている研究成果としては、アディポネクチンをはじめとするサイトカインネットワークの異常を原因とするものや、あるいは炎症を原因と考えるものなどがある。

・遺伝的素因(TCF7L2、Calpain-10、PPARγ受容体などのSNP)
・アディポサイトカイン(アディポネクチン、TNF-α、レプチン、レジスチン、RBP4)
・食事パターン
・内臓脂肪型の脂肪分布パターン
・喫煙
・炎症
・小胞体ストレス


症状

糖尿病は、極度の高血糖(約600mg/dl以上)にならない限り自覚症状は多飲・多尿程度である(血糖値の上昇による浸透圧の上昇のため)。あるいは急性期(発症初期)の血糖高値のみでもこむらがえりなどの特異的な神経障害がおこることがある。慢性期になって、下記の合併症が発症したり進行すると、それに応じた症状が出現する。

分子中にアルデヒド基を持ち、蛋白質を構成する塩基性アミノ酸側鎖のアミノ基と高い反応性を持つブドウ糖の糖化ストレスにより血管系をはじめとした各器官に慢性的な障害をもたらす。このブドウ糖とタンパク質の反応はメイラード反応の前半部分に相当し、またアルデヒド基とアミノ残基の反応によるタンパク質の架橋反応である点でホルマリンによる生物組織の固定作用とも共通する要素を持つ。


糖尿病性昏睡

これは糖尿病の急性合併症であり、一時的に著しい高血糖になることによって昏睡状態となる。体調不良によって平常通りに服薬できなかった場合などに特に起こりやすく、機序によって分類される以下の二つが知られている。


糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

インスリンの絶対的不足に伴い細胞内の糖が欠乏し、あわてて脂肪酸からエネルギーを取り出そうとすると副産物として生じるケトンが全身性の代謝性ケトアシドーシスを引き起こして発症する。意識障害、低体温、腹痛などが症状。統計的には1型糖尿病患者に多い。

高血糖性高浸透圧状態(HHS、非ケトン性高浸透圧性昏睡、HONK)

高血糖性高浸透圧状態(こうけっとうせいこうしんとうあつじょうたい)は、高血糖に脱水が加わって起こる。意識障害が主症状。高齢者はそもそも脱水状態になりやすいのでこの病態にもなりやすい。統計的には高齢の2型糖尿病患者に多い。

上記二つの高血糖による意識障害のほか、糖尿病患者は治療薬の副作用によって低血糖による意識障害や乳酸アシドーシスを呈する場合もある。


慢性期合併症

多彩であるが、糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害によって生じるものを、糖尿病の「三大合併症(triopathy)」といわれる。


糖尿病性神経障害

比較的早期から出現し、小径の自律神経から感覚神経へと障害が進展する(ICD-10:E10.4、E11.4、等)。細胞毒としての 多発神経障害のほか、栄養血管の閉塞から多発単神経障害の形も同時に取る。自律神経障害としては胃腸障害(便秘/下痢)、発汗障害、 起立性低血圧、インポテンツ等。感覚神経障害としては末梢のしびれ、神経痛等である。多発単神経障害としては、一時的な黒内障もみられる。不思議なことに、末梢神経障害は糖尿病にかかっている時間の長さとは相関しない。自律神経障害は、相関する。胃腸障害は、現時点での血糖値に影響されるため、やはり相関しない。


糖尿病性網膜症

糖尿病(性)網膜症(とうにょうびょう(せい)もうまくしょう)は、糖尿病による網膜症。(ICD-10:E10.3、E11.3、等)


病態

血管障害によって酸素欠乏状態になった網膜から、血管を自分のほうへ伸ばすホルモンが放出される。その結果病的な血管が新しく出来る。病的な新しい血管を新生血管と言う。新生血管は非常に脆いため出血がしやすく、それによって目の機能に障害が起きる。詳しいメカニズムはまだ明らかではない。


症状

単純性網膜症、前増殖期網膜症、増殖期網膜症と進行してゆき、最悪の場合硝子体出血や網膜剥離を来たし失明に至る。


検査

眼底透見、蛍光網膜造影検査など

主に間接眼底鏡を用いて、肉眼的に眼底の状態を診察する。必要に応じて眼底血管の漏出や無血管野の確認、レーザー光凝固治療の標的決定のために蛍光網膜造影検査を行う。眼底が外部からよく見えるようにするために、通常、瞳を開く点眼薬を用いて散瞳をおこなうが、散瞳中はピント調節能力が低下するため自動車の運転は困難であるので、眼底検査時の受診交通手段には注意を要する。


治療

増殖性網膜症は対症療法としてレーザー光凝固療法、硝子体切除術を行う。光凝固療法はレーザーで酸素欠乏状態のために新しい血管を要求してしまう網膜を焼き潰すことで、血管新生を抑制する。焼き潰す様子を凝固と言う。硝子体切除術は、すでに生じた増殖組織を取り除くとともに、増殖組織が進展するための「足場」を撤去する意味合いがある。


分類

日本では「福田分類」としてもう少し細かく分類するが、その利点は明らかではない。


統計

・糖尿病そのものに最も相関する。
・2型糖尿病では、診断時に20%は網膜症が存在する。
・発症後20年で、1型の100%、2型の60%の患者に網膜症が発症する。
・日本では中途失明の原因としては最多であったが、平成18年に緑内障に次いで二位となった。

しかし、糖尿病性網膜症による失明人数は年間約3000人で、毎年増加しており、緑内障の原因の一部には糖尿病性血管新生緑内障も含まれている点は留意したい。


糖尿病性腎症

腎臓の糸球体が細小血管障害のため硬化して数を減じていく(ICD-10:E10.2、E11.2、等)。


症状

第1期(腎症前期)
症状は無い。

第2期(早期腎症)
第1期から5~15年で発症する。自覚症状はない。

第3期(顕性腎症)
第3期A
尿検査用試験紙で尿蛋白が陽性となる。自覚症状は通常ない。 
第3期B
続発性ネフローゼ症候群を呈する。低アルブミン血症による浮腫やうっ血性心不全を生じる。

第4期(腎不全期)
浮腫に加え、倦怠感、悪心、精神的不安定、掻痒感などの尿毒症症状が生じはじめる。

第5期(透析療法期)
透析療法を行わないと尿毒症症状が容易に生じ死に至る。


検査

尿一般検査、尿中微量アルブミン測定
患者にしてみれば、普通の採尿検査である。

腎臓生体針検査(病理検査)
毛細血管基底膜が肥厚し、メサンギウム基質が増加する。第1期から糸球体メサンギウム領域に結節性病変ができ、腫大する。

腎臓超音波検査
糸球体が腫大するため、腎不全になっても腎臓は萎縮せず、腫大する。


診断

第1期(腎症前期)
糸球体濾過量(GFR)が増加する。糸球体濾過量が増加する事を濾過過剰(hyperfiltration)と言う。

第2期(早期腎症)
第2期は、微量のアルブミンが尿に漏れ出すようになった時期。微量のアルブミンが尿に漏れ出すようになる事を、微量アルブミン尿(microalbuminuria)と言うが、血糖コントロールによって消失する。濾過過剰を継続している。血尿は発症しない。高血圧が発症し始め、これがさらに腎障害を悪化させ、「腎障害→高血圧→腎障害」という悪循環に陥る。

第3期(顕性腎症)
第3期は持続的蛋白尿が認められるようになった時期。既に不可逆病変である。
第3期A
第3期B
続発性ネフロ—ゼ症候群を呈する。

第4期(腎不全期)
GFRは低下し、血清クレアチニン値も増加する。

第5期(透析療法期)


治療

薬物療法
浮腫に対しては、腎糸球体濾過量を低下させないループ利尿薬を用いる。糸球体肥厚や硬化を防ぐために糸球体内圧を下げるアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬の有用性が示されるが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、Ca受容体拮抗薬など他の降圧剤も組み合わせて用いる。尿毒を便から排泄させる球形吸着炭(クレメジン)やカリウム排泄剤、酸塩基平衡を補正するための重曹やクエン酸ナトリウム・カリウム合剤を内服し、腎性貧血が進行した場合エリスロポイエチンの注射を行う。

人工透析
腎症が進行すれば腎機能が完全に廃絶し透析に至ることもある。クレアチニンが透析導入を判断する基準となる。

腎移植・膵腎移植
日本では臓器提供が少ないので、移植例数がすくない。膵臓の一部と片腎の提供でも、特に1型糖尿病患者では生活の質が向上するので、生体移植も試みられている。膵臓と腎臓は心臓死移植でも提供可能である。移植後、糸球体病変の可逆的変化が観察される事が報告されている。


統計

日本
末期腎不全で透析導入される患者の原因のトップは糖尿病で35%ある。糖尿病そのものよりも糖尿病患者の高血圧のほうによく相関する。


血管合併症

下記の三つの合併症は「大血管合併症」といわれ、糖尿病の有名な合併症であるだけでなく、糖尿病がある場合のこれらの疾患は通常よりも重症で治療が効きづらいことがわかっている。大血管合併症の中では心筋梗塞が最も多い。

・虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
・脳梗塞
・閉塞性動脈硬化症


皮膚合併症

糖尿病性リポイド類壊死症(類脂肪性仮性壊死症)
下腿部に生じる橙色の萎縮斑。中央部が硬くなり、時に潰瘍化することがある。

糖尿病性浮腫性硬化症
うなじから肩にかけて指圧痕を伴わない腫脹が出現する。

環状肉芽腫

糖尿病性黄色腫

Dupuytren拘縮
手掌から指腹にかけしこりができる。進行すると指の伸展障害を引き起こす。

糖尿病の足(Diabetic foot)  
神経障害により足の感覚がなくなっているため、足をぶつけることによる痛みに気づかず、ダメージを受け続けて足に傷が出来る。しかし足の血管障害もあるため傷の部位へなかなか栄養が行かず、ちょっとした傷を治癒させることができずにどんどん大きくなってしまい潰瘍を形成してしまう。足趾壊疽とは成因が異なる。

皮膚感染症(丹毒・蜂巣織炎・皮膚カンジダ症・足白癬など)を併発しやすくなる。
糖尿病の易感染性による。特に細菌感染では、血糖値の上昇がみられ、血糖値のコントロールが通常より困難になるので注意が必要である。


下肢合併症

神経障害性関節症(シャルコー関節)
神経障害のために関節痛に気付かず、障害がある関節がさらに破壊されていく。軽度の疼痛があることもある。

糖尿病性壊疽(足趾壊疽)
閉塞性動脈硬化症とは密接に関連しておこる合併症で、手足の末端への血管がほぼ完全に閉塞することによって栄養が行き届かなくなり、先端から手足の細胞が壊死していく。壊死すると、組織が黒く乾いて見える。


免疫不全

糖尿病患者は、軽度の免疫不全状態となり、皮膚感染症(蜂窩織炎など)、尿路感染症(膀胱炎など)、カンジダ性食道炎、アスペルギルス症などをおこしやすく、また健康な人には感染しないような弱い菌やかび(真菌)による感染症にかかりやすい(AIDS、後天性免疫不全症候群ほどではない)。高血糖状態では白血球(具体的には好中球)の機能が低下することが原因と考えられている。


創傷治癒遅延

糖尿病患者は、傷が健康な人よりも治りにくい。これは特に、手術後に傷がくっつきにくいということに現れやすく、糖尿病患者は手術前に血糖値をよくするためだけに入院を要することがある。


検査

生化学検査

血糖値


血糖値は、食事を食べたり運動をしたりすることで容易に変動する。朝起きてから食事を取らずに測定した空腹時血糖と、どんなとき測ってもよい随時血糖が評価の対象である。 常用負荷血糖(普段の食事をして測定した血糖)では、食事開始(はしをつけて)から1時間後のpostprandial glycemia 1hr; PPG1hrがピークとなることが多いとされ、有望視されている。

HbA1c

過去1-2ヶ月の血糖値の平均値を表すとされる。HbA1c 6.5%未満をコントロール良好とする。

75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)

ブドウ糖75gを含んだ溶液を飲み干した後、時間経過に従っての血糖値、尿糖、血中インスリン値などの経過を見る。国内診断基準ではこのOGTTの2時間血糖値が採用されている。また、0分~30分の血糖値とインスリンの変動は、日本ではinsulinogenic indexとして知られ、インスリン分泌能の評価に有用とされる(国際的コンセンサスではない)。75gOGTTではピークが後ろの時間にずれるためPPG1hrとはピークが異なる。

グリコアルブミン

最近2週間程度の血糖値の平均値を表すとされる。HbA1cよりも最近の血糖値の推移がわかるという利点があるが、HbA1cとはことなり臨床研究で有効性が確認されてはいない。

フルクトサミン

血中インスリン


インスリン分泌能の指標である。1型糖尿病では極めて少ないか、検出できないこともある。2型糖尿病初期には通常、高すぎる血糖を下げるため高値である。近年では、メタボリックシンドロームと関連しても注目されている(診断基準には含まれていない)。

血中Cペプチド

インスリン分泌能の指標とされる。治療としてインスリンを使用している患者では血中インスリンをはかっても、注射したインスリンも一緒に測定してしまい意味がない。また、抗インスリン抗体をもつ患者では血中インスリン測定値は正確な体内での有効インスリン量を反映しない。Cペプチドは、膵臓がインスリンをつくるときにできる副産物であり、(注射したものではなくて)体が作っているインスリン量を反映する。

尿中Cペプチド

24時間ためた尿中のCペプチドを測定することにより、血中Cペプチドよりもさらに正確にインスリン分泌能を測定する。

グルカゴン負荷試験


最も正確で、臨床研究で用いられるインスリン分泌能測定検査。インスリンを出させるホルモンであるグルカゴンを注射し、注射前後でのCペプチド値の変化を見る。

グルコースクランプ法

グルコースとインスリンを注射し、血糖値の定常値を維持するポイントをさだめることによって、インスリンがその人においてどれくらい血糖値を下げることができるのか、すなわちインスリン抵抗性を測定する。インスリン抵抗性の測定においてはもっとも正確であるとされるが、煩雑なので一般病院ではあまり行わない。

ケトン体

アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンという3つの物質をあわせてケトン体と呼ぶ。ケトン体は、インスリンの作用不足でブドウ糖をエネルギー源として利用できない時、体が脂肪をエネルギーに変換しようとする結果、発生する。尿または血液検査で調べられる。ケトアシドーシスは1型糖尿病で起こりやすいため、1型糖尿病では重要な検査。また、シックデイ(感染症などの糖尿病以外の病気に罹患して食事もとれないような日を総称的に指す言葉)の時には、ケトン体が増えやすいため、1型糖尿病で体調を崩した時には測定すると状態を自分で評価できる(ケトン体が出ているようなら、インスリン注射量が需要を下回っているので追加で注射したほうがよい)。最近は、血中ケトン体が測れる血糖自己測定器もある。

そのほか、インスリン抵抗性とインスリン分泌能をそれぞれ把握するための指標として、それぞれHOMA-R、HOMA-βが使用されている。


確定診断

日本では、日本糖尿病学会1999年の診断基準を用いる。これはアメリカ糖尿病学会1997年診断基準に基づいたものである。ただし、アメリカでは検査の簡便さも考慮し、空腹時血糖のみを重視するのに対して、日本とヨーロッパでは食後血糖を診断基準に含んでいるところに違いがある。

空腹時の血糖または75g経口ブドウ糖負荷試験で診断する。空腹時に126mg/dl以上の血糖があればブドウ糖負荷をしなくても糖尿病型と判定される。

通常は判定を2回繰り返し、2回とも糖尿病型であれば糖尿病と診断。口渇や多飲、多尿などの典型症状や糖尿病性網膜症が存在する場合や、HbA1cが6.5%以上である場合は1回だけの判定で糖尿病と診断する。空腹時血糖110-126mg/dlをImpaired Fasting Glucose, IFGと呼び、75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が140-200mg/dlであるものを耐糖能異常; Impaired Glucose Tolerance, IGTと呼ぶ。

IGTはいわば「糖尿病予備軍」と言える病態であり、臨床上の糖尿病との違いは後述する合併症があるかないかという点であった。しかし現在、IGT患者にも神経障害、心筋梗塞、動脈硬化をはじめとした合併症が出現することが知られており糖尿病とはっきり区別する意味は希薄になってきている。(DECODE study、舟形町研究)


治療

概要


・初期糖尿病の治療で重要なのが、食事療法と運動療法である。高血糖ストレスによるインスリン分泌細胞の疲弊、死滅が進行する前に開始することが望ましい。耐糖能異常の段階から生活習慣の修正や体脂肪減量を行うことが糖尿病患者の発生を防ぐために推奨されている。体脂肪の中でも内臓脂肪の減量が重要とされ、インスリン抵抗性を解除し、高血糖状態からインスリン分泌低下の悪循環を和らげることができる。
・血糖値が高い状態であれば、経口血糖降下薬を用いた薬剤療法開始、インスリン療法開始を行う。最近では血糖が高い状態で長い時間経過するということ自体がその後のさまざまな合併症を引き起こすことが指摘されており、できるだけ早期の治療を行うよう世界中の学会が声明文を出している。


食事療法

日常の生活強度に合った食事をする必要がある。1日あたりの総エネルギー量の目安は、

総エネルギー量=標準体重×生活活動強度指数

生活活動強度指数
・軽労働(主婦・デスクワーク):25~30kcal/kg
・中労働(製造・販売業・飲食店):30~35kcal/kg
・重労働(建築業・農業・漁業):35kcal/kg

で計算し、食事量を決める。エネルギー量の計算は、80kcalを1単位として計算する方法が簡単で、一般的である。例えば、デスクワークの多い成人男性では、1500kcal~1600kcal(約20単位)ということになる。

近年糖尿病の食事療法は必ずしも総エネルギー量制限を主とする療法のみではない。血糖を上昇させる主たる栄養素は炭水化物であるとの仮説から、糖質制限食を導入する動きも一部にあり、一定の成果をあげている模様である[要出典]。糖質を制限する食事は食後血糖値の上昇を押さえることには異論は無い模様であるが、年単位以上の長期にわたってそのような食事スタイルを継続することによる、糖尿病以外の病気発生リスクに関する評価はまだはっきりとはなされていない。一般に高血糖状態におかれている場合、血管に与えるダメージを軽減する必要性から血糖値を下げることは非常に重要であるが、炭水化物からとる分のカロリーを蛋白質・脂質から摂取するようにした場合、その分だけ腎臓に負荷がかかることとなるため、腎機能が低下している、もしくはその徴候の見とめられる患者に対して糖質制限食は不適当である。


血糖値はどれくらいならよいのか?

糖尿病のコントロール状態は食前または食後血糖値、またHbA1cを測定することで評価する。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、ヘモグロビンに糖が付着したもので、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する。一方、グリコアルブミンは過去数週間の血糖変化と、食後血糖を反映する検査値である。

実際の治療目標は、血糖値に関して理想的には食前110mg/dL以下(近年、アメリカでは100mg/dL以下を推奨している)、食後140mg/dL未満を目標とする。HbA1cに関しては日本糖尿病学会によると、5.8%以下は優、5.8-6.5%は良、6.5-8.0%は可(6.5-7.0%は不十分、7.0-8.0%は不良)、8.0%以上は不可と評価される。臨床研究によると、HbA1cが7.0%をこえたり、食後血糖値が200mg/dLを越えると、その後の合併症の危険度が増大することがわかっている。

糖尿病患者はインスリンそのものの分泌のタイミングが健康な人よりも遅いことが多いか、分泌されても感受性が低下しているため、食前よりも食後の高血糖を起こしやすく、なおかつ血糖降下薬を用いてもコントロールが難しい(一日の血糖平均値は低下する)。食後数時間のみが高血糖状態であることを「かくれ糖尿病」と表現することもある。一日のうち数時間のみが高血糖でも、長い年月にわたりその状態が継続すると、通常の糖尿病と同様に合併症発生のリスクにさらされる。このようにとりわけ食後の血糖値をいかにして正常範囲に保つかが、今後の糖尿病の合併症予防の課題といえる。


歴史上の人物と糖尿病

歴史上著名な人物にも、晩年糖尿病を患ったと思しき記録が残されている人物が散見される。中国史においては唐代に反乱を起こした安禄山が反乱の最中に失明などを引き起こしたのが糖尿病によるものではないかとする説がある。また日本史上では藤原道長の晩年の健康状態を記した記録(藤原実資の日記「小右記」に見られる)が糖尿病の病態と酷似しており、糖尿病の日本での最古の記録に相当するのではないかと言われている。また、道長の一族には「飲水」と呼ばれる病気が原因で死去するものが多かったと伝えられており、詳細は不明であるが患者はしばしば水を飲用したがる病状が見られるという記録からこれを糖尿病であると考えて、藤原摂関家には糖尿病の遺伝的要因があったのではとする学者もいる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


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